「それ、無理やで」と言われた数だけ、事業は強くなる
2026/10/02「わくらく起業家ファイル」は、事業を続けてこられた会員さんのステップアップのコツを、私が勝手に熱く紹介する記事です。
どんなところを大事にして成長してこられたのか、ピンチのときはどう乗り越えられたのか。
これから事業を広げていきたい方に、
「あ、これって私のビジネスと同じ構造やな」
と置き換えて聞いていただけたら嬉しいです。
第4回の今日は、堺で障害者が活き活きと働くカフェ、障害者支援施設、そして地域活動支援センターを運営されている、株式会社グランディーユの小笠原恭子さんです。
事業を立ち上げられて12年。わくらくの会員歴は、それより少し長い13年になります。

「事業計画、何もないんです」から始まった
出会いは13年前。「障害者が活き活きと働けるカフェを作りたい」という想いだけを抱えて、事業計画も何もない状態でわくらくに来られたのが最初でした。
もともと小笠原さんは、お菓子教室をされていました。
あるとき障害のある方にお菓子作りを教えてほしいと依頼され、そこで知的障害・精神障害のある方の現状を知って、愕然とされたそうです。
高校を卒業したあと行き場所がない。
支援施設に通っても、十分な給料にはならない。「これは、行きづらいな」と感じられた。
そこから大阪市立大学の大学院で障害者教育を学び直されます。
ここが面白いところで、小笠原さんはフランス菓子の学校でパティシエの技術を身につけた方なんです。
お菓子と料理の技術がある人が、障害者教育の知識を手に入れた。この掛け合わせが、のちの事業の土台になります。
お菓子作りは、障害のある方の働き方に合っている
学びを深めるなかで、小笠原さんは「お菓子作りは障害のある方の働き方にすごく合っている」と実感されます。
知的障害や精神障害のある方は、「これをこうしてね」と決められたことを、決められたとおりにきっちり遂行するのがとても得意。
小麦粉を100グラム測るなら、ぴったり100グラム測る。コーヒーも「最初にお湯を注いで何秒蒸らす、それから何グラム注ぐ」と手順書があれば、その通りに正確に作業される。
デコレーションも、決められた位置に丁寧に置かれる。
これ、逆に私たちはどうでしょう。
「100グラム」と言われても、101グラムで「まあええか」と勝手に判断してしまうところ、ありますよね。
つまりこれは「できないことの裏返し」ではなく、特性がそのまま強みになる仕事なんです。
しかも仕事内容がわかりやすいから、働いていて楽しい。
料理とお菓子のプロだからこそ見抜けた一致点でした。
「難しいよ」と言われたときの、二つの道
ただ、想いと確信があっても、経験も人脈もありません。
まず取り組まれたのが、ビジネスプランコンテストへの出場でした。
社会貢献性の高い事業は、多くの人に知ってもらい、興味を持ってくれた方に応援していただくことが何より大事。
クラウドファンディングにも挑戦し、人の目に触れる機会を片っ端から取りにいかれました。
もちろん、飲食店未経験の人が「障害者を雇用するカフェをやりたい」と言えば、「そんなん無理やー」と言う人はたくさん現れます。
接客できるの?
オーダー間違えたらどうするの?
お客さんが落ち着かないのでは?
みなさん、けっこうシビアです。
新しいことに挑戦するとき、難しい側面は必ずあります。
そして、それを指摘してくれる人も必ず来ます。
そこで人の行動は二つに分かれると思うんです。
ひとつは、「やっぱり難しいんやな、こんなに言われるなら私には無理や」と諦める道。
もうひとつは、「この課題をひとつずつ潰していけば、実現に近づくんや」と受け取って、丁寧に取り組んでいく道。
小笠原さんは、迷わず後者でした。
オーダーミスが心配と言われれば、最初からメニュー一覧表を作ってお客様に丸をつけていただく仕組みにする。
接客が不安と言われれば、マナー研修を定期的にしっかり行う。
「難しいんじゃない?」に対して、「じゃあ、できるようにするにはどうすればいい?」と解決法を探しにいく。
この一点だけで、事業の行き先は変わってしまいます。
こうして、まずは10席ほどのカフェから始まりました。
種は、3か月後にも、10年後にも芽を出す
ビジネスプランコンテストに出る。
商工会議所やよろず支援拠点といった公的機関に相談に行く。
これを続けていると、いろんな人が自分の事業を知ってくれます。
相談って、純粋に相談でもあるのですが、半分は営業なんですよね。
「自分を知ってもらう活動」です。
コツコツ種をまいていると、あるとき向こうから声がかかるようになります。
堺市の施設のレストランで運営会社が撤退するから出店してみない?
堺や近隣で農業をされている方とつなぐから、堺の野菜を使ったメニューを作ってよ。
大学がカフェをリニューアルするから手伝ってくれない?
大学のゼミの企画で堺の新しいお土産を作るから、一緒にお菓子を開発してくれない?
こういう話が、次々と舞い込むようになったんです。
これは急に来た話ではありません。
ずっと種をまき続けてこられたからです。
コンテストへの出場も、金融機関から借り入れをして人脈を作ることも、全部が種まき。
経営者の仕事って、結局のところ種をまき続けることだと思うんです。
その種は3か月で芽が出ることもあれば、3年後のこともある。
正直、10年後のこともあります。
でも、まき続けていれば、その種まきが3年後5年後の自分を助けてくれる。
小笠原さんの歩みを見ていると、それをしみじみ感じます。
「作るのが得意」を極めて、売る人と組む
わくらくのお茶のお菓子「茶縁サブレ」も、実は小笠原さんのカフェで作っていただいています。

お菓子事業には、レシピを考える、ブランドを作る、売る、といういくつかのプロセスがあります。
そして、得意分野は人によって違うんですよね。
小笠原さんはレシピ開発がとにかく得意。
一方で私は、どちらかというと売る方が得意。だから組むんです。
私が「地元のお茶の風味が生きるお菓子を作りたい」とお願いすると、緑茶の風味、ベルガモットの紅茶の風味、柑橘の香りがふわっと立つお菓子を開発してくださる。
さらに、私がお菓子の販売に慣れていないので「扱いやすいように、賞味期限を一定期間とれて風味が落ちにくいものに」とオーダーすれば、それに合わせて設計してくださる。
いまグランディーユさんには、有名ブランドや京都の老舗菓子店からもOEMのご依頼が次々と入っています。
OEMとは、よその商品を自分のところで製造して、よそのブランド名で出すこと。
グランディーユで作られたものを、私が「茶縁サブレ」として販売する、という形ですね。
作るのが得意なら、作ることに特化する。
その代わり、売れる人と組んで商品を流していく。
これも立派な売り方のひとつです。
好きなこと、得意なことを極めていった先に、つながりのほうから広がっていく。
自分のリソースが限られている小さな組織にとって、これはとても現実的な戦略だと思います。
10席から、3拠点へ広がっていく
この12年で、小笠原さんは事業を次々に広げてこられました。
10席ほどのカフェから、66席の大きなカフェへ。
開発されたビーガンスイーツがヒットして、大丸心斎橋店に出店したり、東京の催事に呼ばれたり。
「グランディーユで働きたい」という方が増えたので障害者支援施設を立ち上げ、大学とコラボして大学内のカフェ運営も手がけ、いま拠点は3つほどになっています。
こうした歩みを見ると、私自身ものすごく刺激をもらいます。
そして小笠原さんは、立ち上げから関わらせていただいたことで、
「この人には何があっても寄り添っていこう」
とコンサルタントとしての覚悟を決めた会員さんでもあります。
事業の成長に長く寄り添わせていただけるのは、本当にありがたいことです。
堺に行かれるなら、ぜひ
グランディーユさんのレストランは、どなたでも普通に利用できます。
中百舌鳥の駅から3分ほど、堺商工会議所のあるところの横です。
ランチがめちゃくちゃ美味しいんです。
インスタでもインフルエンサーさんによく紹介されていて、せいろ蒸し定食、堺の野菜を使ったグラタン、カレーなど。カフェメニューも充実しています。
堺に行かれる用事があればぜひお立ち寄りを。



