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書評「くもをさがす」西加奈子

2025/03/30

ずっと気になっていた本、西加奈子さんの『くもをさがす』をようやく読みました。


この本は、西加奈子さんがカナダで乳がんと診断されたときの出来事や、治療の過程をエッセイとして綴った作品です。

もともと彼女の作品が好きで、関西弁でテンポよく書かれているので、温かみとユーモアがあって、スッと心に入ってくる感じがします。


乳がんと向き合う時間の中で

告知されたときの気持ちや、そこから考えたことがとてもリアルに描かれていて、

読んでいて胸がぎゅっとなる場面もありました。


そして、周りの人との関わりの中で嬉しかったこと、逆に気になったことも具体的に書かれていて、

「自分だったらどう受け止めるだろう?」と何度も考えさせられました。

特に心に残ったのは、治療が終わった“あと”

安心して、ホッとするはずの“治療が終わった”その時。

でも西さんは、そこから湧き上がる罪悪感や不安についても正直に綴っています。


元気になったことを素直に喜べない気持ち。

周りに心配をかけたことへの申し訳なさ。

「この先どうなるんだろう」という新たな不安。


そういった感情が、とても丁寧に描かれていて、私自身も深く考えさせられました。

「私の全て」は、私が決めたこと

文中に出てくる

「私の『全て』は、結局、私が決定したものである。」

という一文が、特に心に残りました。


この言葉にふれたとき、

自分の“今”という時間を、もっといろんな角度から眺めてみたくなりました。

良いことも、そうでないことも含めて

「自分が選んできた人生なんだな」と、

改めて立ち止まって考えるきっかけをもらった気がします。

『くもをさがす』は、乳がんの闘病記という枠におさまらない、

“生きること”や

“自分らしさ”

にそっと光を当ててくれるような本でした。


これは西加奈子さんの作品全般に感じられる愛情深さやおおらかさと連動している気がします。


同じように病気と向き合っている人はもちろん、

日常の中でふと立ち止まりたくなるような瞬間がある人にも、

そっと寄り添ってくれる1冊です。