大阪・本町に、私が大好きなレストランがあります。
アンパルフェというフレンチレストランで、カウンター10席ほどの小さなお店。
でもここのシェフが、本当に天才なんです。
「天才」という言葉を安売りしたくないのですが、他に言いようがない。

たとえば名物の「青さのパン」。お味噌汁に入るあの海藻・青さをパン生地に練り込んでいるんです。
海の香り、塩気、それがパンの香ばしさと溶け合って「ありそうでなかった、でも食べると美味しい」という、あの感覚。
知っている食材なのに、組み合わせた瞬間に別次元のものになる化学変化。
これを毎回やってのけるシェフの発想力に、私はいつも座席で小さく「すごい……」とつぶやいています。


しかもカウンター越しに目の前で仕上げの炙りやソースがけを演出してくださる劇場型のスタイル。
料理も接客も、ぜんぶがショーなんです。
社員の20周年記念パーティーの打ち上げにも迷わず連れて行って、全員に喜んでもらえた思い出もあります。

その日、新しいアシスタントさんの話を聞いた:
先日また訪れたとき、アシスタントの方が新しい顔ぶれでした。
「この春からです」とおっしゃるので、入ったきっかけを聞いてみると——
なんと、もともとお客さんとして来店していた方だったんです。
シェフの料理を食べて感動して、「この人と一緒に働きたい」と思った。
その場でシェフに「求人はありませんか?」と直接声をかけた。
すごくないですか?
美味しいものを食べに来て、感動して、「働かせてください」と言ってしまう。
その行動力、その情熱に従う素直さ。
その時は残念ながら求人がなく、お断りされたそうです。
でも彼はその後もお客さんとして通い続けた。
そしてシェフが3店舗目を出されるタイミングで人員が必要になったとき、シェフ側から彼に声がかかったのです。
「この店に来たこと、求人を聴いたことでここで働くことに繋がったんです」と、嬉しそうに話してくださいました。
「口に出す」ことで失うものは、ほとんどない:
この話を聞いて、私はしみじみと思いました。
やりたいことは、口に出すこと。ただそれだけでいい。
口に出しても、その場で実現しなくてもいい。
相手の頭の中に「種」が植わるから。
そしてその人にとって本当に必要なタイミングで、チャンスとして芽が出てくるのです。
私自身も、振り返るとそういう経験がいくつもあります。
産経新聞のコラム連載は、「恐れ多い一言」から生まれた:
私はブログを22年書き続けています。わくらくを立ち上げた時からずっと。
父が亡くなった1週間だけ、気持ち的に書けなかった以外は、ほぼ休まず書いてきました。
文章を書くことが、昔から好きなんですよね(最近は喋ったものをAIに書かせるスタイルが中心になりましたが笑)。
そんな私がずっと心の中に持っていた夢が、「いつかパブリックな場所にコラムを書きたい」というものでした。
あるとき、産経新聞の記者さんに取材していただく機会がありました。
女性経営者コミュニティの活動を紹介していただいたのですが、その取材の場で、私はつい言ってしまったんです。
「いつかこういう新聞に、コラムを書いてみたいんです」と。
記者さんを目の前にして、なんて恐れ多いことを……と思いながらも、言葉が出ていました。
それから約1年後。その記者さんから連絡が来たんです。
「夕刊に癒しに関するコーナーを作るのですが、書きませんか?」と。
記者さんは覚えていてくださっていたのです。あの「恐れ多い一言」を。
嬉野のシンポジウム登壇も、「言い続けていた」から実現した:
もう一つあります。
私の地元・佐賀県嬉野市への思いは、ずっとあちこちで口にしてきました。
「大阪と嬉野をつなぐような仕事がしたい」「地域に微力ながら貢献したい」と。
実力も実績も、最初はなかったけれど、それでも言い続けていた。
3年前、嬉野に新幹線が開通するタイミングで地元でシンポジウムが開催されました。
そのとき、嬉野市長から直接声をかけていただき、パネラーとして登壇する機会をいただいたんです。
今では道の駅でポップアップ出展もさせてもらえるようになりました。
「口に出す」には、もう一つの効果がある:
声に出すことで相手の記憶に残る——それだけではないんです。
口に出した瞬間から、自分の中でウォーミングアップが始まるんです。
コラムを書きたいと思ったら、新聞を読む目が変わります。
「この題材の切り取り方、いいな」
「こういう書き出し、読みやすいな」
と、無意識にアンテナが立ち始める。
嬉野の地域おこしに関わりたいと思ったら、木下斉さんの音声配信や本を読み込んで、成功している地方都市の事例を自然と集め始める。
嬉野茶を使ったお菓子を作って、お茶の業界のことも勉強し始める。
だから、ステージが来たとき——「さあ、登壇してください」と言われたとき——すでに準備ができている状態になっているのです。
アンパルフェの彼も、きっとそうだったと思います。
「いつかここで働きたい」と言ってから、料理の知識を磨き、接客を学び、いろんなお店で自分を鍛えていたはずです。
だから声がかかったとき、すぐに応えられた。
実際、彼の接客は本当に素晴らしかった。料理の説明も、さりげない気遣いも、写真を撮ろうとする私たちへの細やかなサポートも。
あなたの「やりたいこと」は、もう言葉にしていますか?
経営をしていると、「まだ実力が伴っていない」「実績がないのに言うのはおこがましい」と、やりたいことを心の中だけに閉じ込めてしまいがちです。
でも、口に出して失うものは、ほとんどない。
むしろ、口に出した瞬間から世界は動き始めます。相手の記憶の中で。自分の脳の中で。
タイミングは、必ず来ます。その時あなたが「準備できている人」であるために——まず今日、誰かに言葉にしてみてください。